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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)7482号 判決 1988年3月11日

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 坂東司朗

被告 株式会社紫塚スポーツシティ

右代表者代表取締役 芳賀満男

右訴訟代理人弁護士 下村文彦

同 伊藤惠子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告の経営に係る紫塚ゴルフ倶楽部の会員の地位を有することを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、紫塚ゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフクラブ」という。)を経営していると称している株式会社である。

2  原告は、訴外国土興業株式会社との間において昭和四七年一二月三一日本件ゴルフクラブ及びその付属施設の利用を目的とした入会契約を締結し、同日預託金として九五万円を預託し、正会員たる地位を取得した。

3  しかるに、被告は、原告に対して原告の本件ゴルフクラブの会員としての地位が消滅した旨を通知し、かつ、原告に預託金の受領を促している。

よって、原告は、被告に対して、原告が本件ゴルフクラブの会員の地位を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実は全部認める。

三  抗弁

1  被告は、昭和五六年九月ごろ訴外国土興業株式会社から本件ゴルフクラブについての営業譲渡を受けたものである。

2  原告は、昭和五五年度から本件ゴルフクラブの年会費を滞納し、昭和五七年一一月一日に一年度分二万八〇〇〇円を被告に入金してきたものの、昭和六一年八月には、六年分合計一六万八〇〇〇円を滞納するに至った。

3  被告は、原告に対して、別紙記載のとおり未納年会費の請求をしたが、昭和六一年八月二〇日未納年会費合計一六万八〇〇〇円を早急に送金するように催告した。

4  被告は、原告に対して、昭和六一年一〇月二九日到達の書面で年会費不払を理由に会則一〇条により原告を昭和六一年一〇月一二日をもって除名する旨通知した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は不知。

2  同2の事実の内、原告の年会費滞納の合計が一六万八〇〇〇円であることは否認し、その余の事実は認める。原告の滞納年会費は一四万円である。

3  同3の事実は不知。

4  同4の事実は認める。

五  再抗弁

被告が原告に対して本件ゴルフクラブの入会契約を解除するのは、解除権を濫用するものである。

原告は、入会時に預託金として九五万円を納付ずみであるが、年会費の額が一年に二万八〇〇〇円と少額であるのは事前に預託金をまとめて支払っているからである。年会費の支払債務は会員の中心的な債務ではないのである。原告は年会費の支払を失念していただけであり、催告があれば支払うことができたにもかかわらず、被告から催告がされた形跡がない。仮に催告がされたとしても、形式的にされたにすぎず「催告」の機能を果たしていない。

被告は、ゴルフ倶楽部開場後既に一〇年を経過しているが、いまだに会員に対して会員数、会員名を明らかにせず、会員権の譲渡も認めていない。これらは会員の立場を無視する被告の経営態度の表れである。

また、本件ゴルフクラブの経営主体が訴外国土興業株式会社から被告に移転していることすら原告ら会員には知らされていなかったが、そのこと自体、被告側において一般会員との信頼関係の維持に何等の努力を払っていない証拠であり、このような態度を棚に上げて年会費滞納の責任のみを追求することは許されない。

六  再抗弁に対する認否

全部争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁について判断するに、

1  弁論の全趣旨とりわけ原告自身が被告に対して本件確認請求における確認の利益が原告に存すると主張していること、及び被告が現在本件ゴルフクラブの経営を行っていることは当事者間に争いがないことを総合すれば、抗弁1の事実はこれを認めることができる。

2  同2の事実の内、原告が昭和五五年度から本件ゴルフクラブの年会費を滞納し、昭和五七年一一月一日に一年度分二万八〇〇〇円を支払ったのみであることは当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、原告の昭和六一年八月における本件ゴルフクラブの年会費の滞納額は合計一六万八〇〇〇円であったと認めることができ、右認定に反する証拠はない。

3  《証拠省略》を総合すると、抗弁3の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

4  抗弁4の事実は当事者間に争いがない。

三  一般にゴルフクラブの会員権契約において、会員が所定の年会費を支払うことは契約上の基本的な債務であるということができ、その債務の不履行があったときは、ゴルフクラブ会員権契約の当事者において民法五四一条の規定に従い、そのゴルフクラブ会員権契約を解除することができるものと解される。

ところで、右の事実によれば、本件ゴルフクラブの理事会は、会則に従い、原告に対してその年会費滞納を理由に催告の上除名の通知をしているのであるが、その趣旨は、本件ゴルフクラブ会員権契約の当事者たる被告から原告に対してする前記債務不履行を原因とするゴルフクラブ会員権契約の解除の旨の意思表示を含むものと認めるのが相当である。けだし、《証拠省略》によれば、本件ゴルフクラブの理事会は、本件ゴルフクラブの経営主体である被告の委託を受けた経営の執行のための機関であると認めることができるからである。したがって、被告の右解除の意思表示には無効原因はないから、被告と原告の間の本件ゴルフクラブ入会契約は右解除の意思表示により終了し、原告の本件ゴルフクラブの会員たる地位はすでに消滅したものというべきであって、被告の抗弁は理由がある。

四  次に、再抗弁について判断するに、再抗弁事実の内、被告が原告に対して未払年会費の催告をしていた点は前記認定のとおりであるが(前記二3参照)、その余の再抗弁事実は、仮にその事実が認められたとしても、被告からする本件ゴルフクラブの入会契約の解除権の行使が権利の濫用になるものと評価すべき事実ということはできない。よって、再抗弁は、その余の事実を確定するまでもなく、理由がない。

五  よって、原告の本件請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 慶田康男)

<以下省略>

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